特定秘密保護法について

特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)について

12月6日に通常国会で特定秘密保護法が成立しました。この法律は私たちの生活にとって、とても重要な法律ですが、十分な審議や法律の内容を国民に知らされないままで成立したことも問題です。今回、この法律について問題点を整理し、みなさんへお知らせします。

1 秘密保護法とは

国の安全保障に関して特に重要な情報を「特定秘密」に指定し、それを取り扱う人を調査・管理し、それを外部に知らせたり、外部から知ろうとしたりする人などを処罰することによって、「特定秘密」を守ろうとするものです。
政府がこの法律を作ろうとしたきっかけは、2010年に起きた尖閣諸島沖での中国漁船による衝突映像のインターネット流出事件がきっかけといわれ、「今の法律では、国の安全に関わる秘密の漏えいを防ぐ管理体制が不十分だ」として「秘密保全法制を作りたい」と動き出しました。

2 秘密保護法の内容

  1. 「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」を行政機関が「特定秘密」に指定する。
  2. 秘密を扱う人、その周辺の人々を政府が調査・管理する「適性評価制度」を導入する。
  3. 「特定秘密」を漏らした人、それを知ろうとした人を厳しく処罰する。

などが柱になります。

3 秘密保護法の経緯

2011年8月「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(座長:縣公一郎・早稲田大学政治経済学術院教授)は、秘密保全法制を早急に整備すべきだという「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を発表しました。
報告書を受けて「政府における情報保全に関する検討委員会」(委員長:内閣官房長官)は同年10月、「2012年通常国会への提出に向けて法案化作業を進める」ことを決定しました。
法案が2012年の国会に提出されることはありませんでしたが、政府は着々と提出に向けた準備を進めていました。2013年9月には「特定秘密の保護に関する法律案の概要」が公表され、法案の具体的な内容も明らかになりました。
そして政府は、10月25日の閣議で、機密情報を漏らした公務員などへの罰則の強化を盛り込んだ「特定秘密保護法案」が衆議院に提出され、2013年秋の臨時国会で成立しました。

4 秘密保護法の問題点

1) プライバシーの侵害

秘密保護法には、「特定秘密」を取り扱う人のプライバシーを調査し、管理する「適性評価制度」というものが規定されています。調査項目は、外国への渡航歴や、ローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴…等々、多岐に渡ります。
秘密を取り扱う人というのは、国家公務員だけではありません。一部の地方公務員、政府と契約関係にある民間事業者、大学等で働く人も含まれます。その上、本人の家族や同居人にも調査が及ぶこととなり、広い範囲の人の個人情報が収集・管理されることになります。

2) 特定秘密の範囲

「特定秘密」の対象になる情報は、「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」に関する情報です。
これはとても範囲が広く、曖昧で、どんな情報でもどれかに該当してしまうおそれがあります。「特定秘密」を指定するのは、その情報を管理している行政機関ですから、何でも「特定秘密」になってしまうということは、決して大袈裟ではありません。行政機関が国民に知られたくない情報を「特定秘密」に指定して、国民の目から隠してしまえるということです。

(例えば)
国民の関心が高い、普天間基地に関する情報や、自衛隊の海外派遣などの軍事・防衛問題は、「防衛」に含まれます。また、今私たちが最も不安に思っている、原子力発電所の安全性や、放射線被ばくの実態・健康への影響などの情報は、「テロリズムの防止」に含まれてしまう可能性があります。これらが、行政機関の都合で「特定秘密」に指定され、主権者である私たち国民の目から隠されてしまうかもしれません。
その上、刑罰の適用範囲も曖昧で広範です。どのような行為について犯罪者として扱われ、処罰されるのか、全く分かりません。

3) マスコミの取材や報道の阻害

「特定秘密」を漏えいする行為だけでなく、それを知ろうとする行為も、「特定秘密の取得行為」として、処罰の対象になります。マスコミの記者、フリーライター及び研究者等の自由な取材を著しく阻害するおそれがあります。正当な内部告発も著しく萎縮させることになるでしょう。

海外の報道や反応
  • AP通信は「中国の軍事力増強に対抗するために強い日本を望む米国は、法案可決を歓迎している」と報じています。
  • ウォール・ストリート・ジャーナル(ニューヨークで発行される日刊新聞で全米二位の発行部数)は、駐日アメリカ大使館首席公使のカート・トンが、法案成立により日本が「より強力な同盟国」となると本国は評価していると報じました。
  • ニューヨーク・タイムズ(ニューヨークに本社を置く日刊新聞・全米三位の発行部数)は「Japan's Illiberal Secrecy Law」(日本の反自由主義的秘密法)と社説にて批判しました。
  • ワシントン・ポスト(ワシントンDCで発行される全米五位の日刊紙)は「Japan secrecy law stirs fear of limits on freedoms」(日本の秘密法は自由が制限される不安をかき立てる)とする記事を掲載。
  • シュピーゲル(ヨーロッパ最大の硬派な週刊誌)電子版は「日本で、内部告発者を弾圧する、異論の多い立法が成立した」と報じました。
  • フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(ドイツの高級日刊紙)は「日本が報道の自由を制限 我々はフクシマの原発事故を報道することが許されるのであろうか?」と題する解説記事を文芸面に掲載しました。
  • 国際連合人権理事会は表現の自由担当特別報告者フランク・ウィリアム・ラ・ルー、健康への権利担当特別報告者アナンド・グローバーの両氏が「法案は透明性を脅かす」と表明した。また国際連合人権高等弁務官のナバネセム・ピレーも、法案にはいくつかの懸念が十分明確になっておらず、成立を急ぐべきではないと表明しました。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ(国際的な人権組織のNGO団体)が特定秘密保護法案について「秘密指定の権限や情報漏洩の処罰が広範囲過ぎ」、「公益を守るため見直しが必須」と表明しています。
  • 日本外国特派員協会は「報道の自由及び民主主義の根本を脅かす悪法であり、撤回、または大幅修正を勧告する」と表明しました。
  • 元アメリカ国防次官補・モートン・ハルペリンは共同通信のインタビューに応え、「知る権利と秘密保護のバランスを定めた国際基準を逸脱している」「過剰な秘密指定はかえって秘密の管理が困難になる」と法案を批判しました。