早乙女愛さん
「軍隊をすてた国」プロデューサー
インタビュー
早乙女愛(さおとめあい)
1972年、東京生まれ。幼少のころより、父親で作家の早乙女勝元氏の取材旅行に同行し、国内外の戦跡をめぐり歩く。同志社大学文学部卒業後、ドイツに1年遊学。帰国後商社に就職。4年間のOL生活中に、父親の取材のアシスタント、翻訳、ドイツ歌曲の訳詩を手がける。早乙女勝元企画の制作会社として2001年4月、あいファクトリーを設立。ドキュメンタリー映画「軍隊を捨てた国」をプロデュース。

 映画会の翌日、早乙女さんの希望で知覧の特攻平和会館を、生協コープかごしま平和グループの組合員と見学しました。
 展示を見学した後、映画や平和の問題について、お話をうかがいました。




●平和G
映画の中では、コスタリカの平和文化教育の様子がたくさん描かれていましたね。あらためて、映画の中に描かれたこと以外で、早乙女さんが感じたコスタリカの平和文化教育の特徴というのはどういうことなんでしょう。「戦争はいやだ」という反戦教育よりも「平和はいいよ」っていう前向きなところなのかな、と感じるんですけど。

●早乙女
 そうですね。コスタリカのは日本と違って「あらたまって教える戦争」というものがないんですよ。軍隊廃止の憲法のもとになったのは内戦で、過去に他の国との大きな戦争ではないんですね。そのあたりが日本とはちょっと事情が違うところです。また、なぜ軍隊を廃止したのかと問われても、平和運動とか平和教育の中で、きっかけとなった歴史上の内戦を持ち出してきてるわけでもないんですよ。

●平和G
 コスタリカで軍隊を廃止した憲法は1949年にできましたね。日本は1947年で、時期的には似ているけど全く関係はないわけですね。

●早乙女
 憲法が生まれたきっかけは、自分の国の中で起こった内戦ですから、日本とは経緯がだいぶ違います。授業で平和憲法の意味を教える時に、日本のように太平洋戦争を持ち出すということはないわけです。

●平和G
日本では、まず過去の戦争の実態を知って、それからという発想ですもんね。

●早乙女
 もちろん内戦といっても戦争は戦争なので、たくさんの人が亡くなっています。きっかけは大統領選挙の際のごたごたですね。例えばペルーのような例もありますけど、民主主義が機能していない国での選挙は、暴動が起きたり、有権者がきちんと投票権を行使できなかったりします。「軍隊廃止」の目的は、戦争を防ぐというよりも、「選挙を民主的に行うためそういうシステムを作らなければ」という発想が先だったようですね。クリーンな選挙、平等な選挙を行うためのシステムとして、コスタリカでは第四の権力として司法・立法・行政から完全に独立した、選挙のための最高裁判所を作りました。映画の中ではちょっとわかりにくかったかもしれませんけど。

●平和G
 軍隊との関係はどうなんでしょうね。映画のインタビューの中で、選挙に対して「軍隊の介入が…」という言葉がありましたよね。

●早乙女
 中米の歴史の中では、軍事政権というものがいつも付きまとっているんですよ。国民の中では、「軍隊」というのは外から来る敵と戦ったり守ってくれるもの、というよりも、それがあるために自分たちの生活が苦しめられてきたという歴史の方が大きいわけです。だからグアテマラやニカラグアなどの隣国の歴史を見て、「やはり軍隊を残しておくとろくなことはない」というのが、コスタリカ国民の心理の中にあるんじゃないでしょうか。軍事政権下で国民への弾圧が長く続いていたため、「軍隊は嫌だな」という気持ちが中米全体に根づいているんでしょう。

●平和G
 日本では軍隊というのは外部からの危機から国民を守るとか、テロから守るため、とか言っているけど、たしかに映画のインタビューの中で出てきた言葉からは、そんな受け取り方ではなかったように思いましたね。日本でも自衛隊はあるけれど、選挙に対して何か影響があるわけではないしね。

●早乙女
 コスタリカの人たちは、本当は警察も嫌なみたいですね。警察は最低限の治安を守ってくれるならいいけど、それ以上に権威を振りかざさないでほしいという気持ちが国民の中で強いと思います。だから警察の軍事化ということをすごく警戒しています。軍隊という組織の本質を毛嫌いしているんですね。

 本当の民主主義を根付かせた教育の力 

●早乙女
 コスタリカの人たちの中には、軍隊を持たないことがイコール平和である、というような考えよりも、どうしたらそういうものに頼らないでいいのかということを考え、生活の中でそれを作っていこうという気持ちが自然に根付いているんですね。

●平和G
 そこがすごいところだと思いますね。国民自身が目覚めているというか、常に平和を求める気持ちを意識している、というところが見習わないといけないところだと感じました。

●早乙女

 そうですね。ですから選挙最高裁判所というのは、もともと内戦が起こったのは民主主義がきちんと根付いていなかったから、という反省から作られました。名前だけ見ると他の国の選挙管理委員会みたいですけど、コスタリカでは警察でさえも投票前の4ヶ月か前から、行政の管理下から、独立した選挙最高裁判所の管理の下に移行されます。だから選挙をするにあたって、みんなが平等に、きっちりと投票ができるよう、交通機関とかも含めてそのための環境を整えることができるんですね。

●平和G
 それで選挙の投票率がすごく高いんですね。

●早乙女
 そういったことをきちんとしないと、ちょっとしたもめ事から、いつまた「軍隊が必要だ」というような声が出てくるかもしれないし。そうならないように作った機能が半世紀続いてきたわけですよね。半世紀も続くと忘れちゃうみたいなんですね。軍隊とか戦争という概念を。ですから子供の教育でも、あえて戦争の恐ろしさとかを持ち出さなくても、まあコスタリカはあまり経験がないので教えるものもないんじゃないかと思いますけど、それだけを抜き出して、こういう悲惨なことにならないために平和を実現しましょう、という言い方じゃなくて、平和であるために具体的に何をしたらいいのかということに対し、現実的かつ具体的なことに取り組めるわけです。

●平和G
その辺がすごいと思いました。それも教育が行き渡っているせいなんでしょうか。

●早乙女
 1949年という時期にそんな憲法を作ったのもすごいけど、それを維持するために頑張ってきた国民の力というのも大きいですよね。それはやっぱり教育のおかげかなと思います。

●平和G
国家予算の4分の1くらいでしたっけ?

●早乙女
 そうですね。ただ予算全体の規模がたいしたことがないので、せいぜい日本の茨城県くらいだったと思いますけど、そのまた4分の1だから、日本から見ると大した金額ではないですよ。でも割合でみると確かにすごいことですね。

●平和G
 福祉のことはどうなんでしょうか。映画の中に子供たちがたくさん出てきたけれども、老人たちのことはあまり出なかったですね。

●早乙女
 福祉はそうですねえ、私もそこまで詳しく勉強したわけではないんですけど。ただ医療費は子供だけじゃなくて国民全て無償です。そのせいか平均寿命がとても高いというのも事実のようですね。日本人の寿命が世界一というのはよく知られているけれども、コスタリカも2位の座を、北欧の国と争ったことがあるくらいだそうです。回りの国と比べて識字率と、寿命はダントツに高いので、福祉もまあそれなりに充実しているんじゃないかと思います。紛争がないから、小さな子供の死亡率が低いということもあるかもしれませんね。子供の死亡率は先進国と比べれば高いでしょうけど、周辺の国と比べればそれは半分以下くらいのようです。

 生活の中から生まれてくる愛国心を大切に

●平和G
 軍隊がないということは、ある意味でこの国は理想ではあるけど、私たちや他の国が軍隊をなくしていこうとしても、歴史が違うし、それぞれの国の状況というのは違うから、難しいとも思うんですけど…。

●早乙女
 確かに私もコスタリカの取った道が、即、日本で当てはまるものではないと思っているんです。おもしろい参考にはなるけれど。
 日本でもちょっと頭でっかちというか、教育関係の方に多いようですが、とにかく「コスタリカはすごい、素晴らしい! コスタリカみたいになりたい!」なんて、熱狂的な方がいるんですね。私はこんな映画を作りましたけど、そういうのはちょっとやばい傾向かな…という気がします。あまりにも無条件でコスタリカを称えていると、今の日本の自分達の生活をどうするかという視点がなく、一足飛びにコスタリカに頭が行っちゃって。コスタリカがなにかパラダイスかユートピアのようになっちゃっているんですね。


●平和G
 まずは自分たちの暮らしや状況に合ったもの求めないといけないですよね。

●早乙女
 そうですね。ここではないどこかに理想郷があるっていう考え方はなんだかねえ。良い国とか悪い国とか、そんなに単純にあるもんじゃないと思うんですよ。私も「アメリカはやだな」なんてわりととすぐ思ったりちゃったりする事が多いんだけど、でも結局は住んでいる人が幸せなのかなっていう問題だから、コスタリカをの一部だけを見て、理想郷だとか割り切りられると困っちゃいますね。日本に住む人たちにとって何が参考になるかな、と冷静に見ていかないと。参考にはなるけどお手本ではないですよね。

●平和G
 映画の中の人たちから、軍隊は大嫌いだけど、自分達の国が大好きだという気持ちはとよく感じました。

●早乙女
 愛国心はすごいですよ。 愛国心って本来はいいことじゃないですか。今の日本では、「愛国心」なんて言うと、すぐに「日の丸」「君が代」を連想しちゃって、たいていの人は気持ちが引いてしまいますよね。それはやっぱり今までの歴史と、そう思わせた教育というものにすごく責任があると思います。本来自分の国が好きだという気持ちは、すごくいいことだと思いますからね。 

●平和G
 国民の一人一人が自分の国を良くしようと考えることが愛国心ですよね。そういう意味で、投票にもいかないで「日本の国はやりたい人が好きなようにやればいいじゃない」と思っている日本は、やっぱり憂うべきことですよね。
●平和G
 過去に使われた愛国心という言葉は、すごく嫌な感じがするんですよね。この記念館にも「愛国婦人の会」とかの展示があったじゃないですか。斜めだすきにかけて(笑)。今愛国心と言われたら、なんだかそういう物しか思い出せないですよね。

●早乙女
 映画を見ているとわかっていただけると思うんですけど、コスタリカの子供たちの顔を見ていると、たぶん自分が生きていくこと、大人になっていくことと、自分が住む国がどんな風に進んで行くのかということがイコールだと、自然に考えているわけですよ。別に先生がそういうふうに考えなさいと教えているわけではなくて、自然にですね。今の日本では気持ちが乖離ちゃってるじゃないですか。国がどういうふうに進もうが、それは大人の政治がやることであって僕たちには関係ない、というふうにね。コスタリカはそうなっていないところが投票率にちゃんと現れているなと思います。

●平和G
 愛国心って教えてもらうもんじゃないですよね。いま日本では「愛国心」という言葉がちょっと聞こえが悪いんで「国を愛する心」なんて言い換えたりしてるでしょう。そのまんまですけどね(笑)。福岡かどこかでは愛国心の度合いを成績表に盛り込むなんて話もありましたね。そんなもの押し付けられたらたまらないですよね。

●早乙女
 ほんとに、愛国心というものというものは、自分の生活の中から自然に生まれてくるもので、教科書で愛国心を押し付けるというのはおかしいんですよねぇ。

 平和って眠たい…それが幸せ

●平和G
これまで全国各地いろんなところで映画とセットで講演をしてこられたわけですけど、お客さんの反応での中で、印象に残っていることとかありますか。

●早乙女
 印象に残ったことは結構ありますよ。自分の生活の観点から、好きなように受け取ってくださる方が多いんですよ。コスタリカという国が単純にすごくいいとか、あんな国はあり得ないとか、そういう賞賛や批判じゃなくて。
 いろんな人たちがたくさん登場するじゃないですか。その部分を見て、自分の生活に一番近くて親しみがわく部分を、わりと好き勝手に受け取ってくださるという方が多いというのはうれしいですね。
 お客さんも女性が多いんですけれども、印象に残っているのは、お母さんたちの声かな、やっぱり。
 平和のために何ができるかな、っていうのを普段から考えていると、それは平和憲法を守ることだと思っていたけど、どうもそうじゃないんじゃないかって映画を見て気づいた、と言ってくださるんですね。憲法というのは理念ですから、実践するには何か別なことをしないといけないわけで、「ああそうか、私は自分の子供を守ることを考えればよかったんだ」ということに気づいたって。そう感想文に書いていた人がいました。理念じゃなくて、行いが大事ということを映画を見て気づいてくれたという人がいたことがとてもうれしかったです。

●平和G
本当に、この作品は生活の映画だもんね。

●早乙女
まあ退屈ですけどね(笑)

●平和G
私の横の人も眠ってました。平和って眠たいんだなあって思いました…(笑)。

●早乙女
 始まる前の講演でも言いましたけど、平和って、記事にもならない、ニュースにならない、形にならない、何にもならない…そういうところから始まった企画ですから。

●平和G

どこでも何の心配もなく眠れるっていうの、幸せですよね。


 ラテンアメリカの血  

●平和G
 映画の中で、親が子供を学校に送って来てたでしょう。それで学校の前で抱き合ったりして。あれは何ですか?寄宿舎かなんかに入るところ?

●早乙女
 ああ、あの地域では向こうではたいてい毎日親が学校まで送るんです。

●平和G
これで生き別れになるんじゃないかっていうくらい、大げさな感じでしたね。

●早乙女
 そうですね。あれはやっぱりラテンアメリカの血だと思うんですけど、とにかくスキンシップ、肌と肌の確かめあいはすごいですよ。映画の中で警察官の家族が出てきたでしょう。ベッドの上で子供とすごい取っ組み合い、というかプロレスごっこをみたいなことをお母さんも一緒になってやってましたよね。お父さんが出勤するまでに、5回ぐらいキスするんですよ。それを毎日。学校に行くだけなのに親が愛しそうについてきて。

●平和G
学校って家からすごく遠いんですか?

●早乙女
 映画に出てきた地域はそういうわけでもなくて、ただちょっと治安が悪い所、というのもあるんですけどね。それで心配してついてきているというのもあると思うんですけど。あれが毎日毎日なんですよ。帰りも向かえに来る親が多いし。
 また別の学校なんだけど、遠くから通ってくる子のためのスクールバスに同乗させてもらったことがあるんですね。運転手さんがクラクションを鳴らして帰ってきたことを知らせると、親はもともと待っているんだと思うんだけど、玄関からすっとんできて抱き締めるんですよ。ほとんどそうなんですよね。

●平和G
日本みたいに淡白じゃないですねぇ

●早乙女
 そうですね。ラテン系ってみんなああなんでしょうか。愛情表現をすごく外に出しますね。

▲映画「ホタル」でも登場した富屋食堂の記念館前で
 特攻隊員の死の意味は…?

●平和G
最後に…。この知覧の特攻平和会館を見た感想はどうですか。

●早乙女
 率直に言ってですねえ…、すごいですねぇ。すごい、じゃわからないですよね(笑)。特攻隊員の写真がずらっと並んでましたよね。それがなんだかみんな美青年に見えて…。あの人たちは年齢で言うと17歳くらいから20代の後半くらいまでですよね。 普通なら女の子と遊びたいとか、一番いろいろやりたい時期じゃないですか。そんなことすべてを押し殺して行くわけだから、顔つきがなんというか、落ち着いているのか引き締まっているのか分からないけども、すごい、こんな顔をして行ったんだないったんだなと…。 一人一人の顔を見るのは興味深かかったです。時間が許すかぎり、どういう子だったんだろう?という想像をできるだけしてみました。


●平和G
 今でも来るたびに少しずつ展示が変わってますよね。部屋が建て増しされて増えている感じがするし

●早乙女
 展示の中で大東亜戦争っていう言い方をしてるものも多いですよね。当時はそう呼んでいたから、その説明は分かるんだけれど、現在の立場で私たちが見るのに「大東亜戦争」と書いてあると、この展示は一体何なんだろう…とちょっと引っかかるところがありました。
 今年の夏に真珠湾に行って、戦艦ミズーリ号や、潜水艦ボウフィン(学童疎開船の対馬丸を撃沈した)を見てきました。
 そこで感じたこともいろいろあったんですけど、そこの展示の仕方というか、表現の仕方が当時のままで。「これだけ敵の船を沈めました」と、要するに立派な戦績を称えるための記念館なんです。それはアメリカの人たちの展示ですけど、ここもそれにちょっとだけ似てるかなっていう感じがしたんですね。


●平和G
 アメリカでもOBの軍人さんとかの勢力がすごいそうですからね。スミソニアン博物館の原爆の展示の方針を変えさせたりしちゃったとかいうことがあったでしょう。

●早乙女
 私が行ったハワイの記念館を作っているのも、そういう人たちですね。当時そういう業績をあげたっていうのは事実は事実なんでしょうけれども、その事実と私たちの生活との関係、また別の戦争を生み出している今の世界との関係を、記念館を訪れる人たちがつねに考えて見なければいけないと思います。見る側の眼が問われますね。
 ここの展示もそうなんですけど。 寄せ書きとか、折り鶴の中にも感想文が載ってましたね。「私たちの平和はあなたたちのおかげです」とか。尊い命の犠牲の上に築かれた平和、ってことなのでしょうけど、純粋にそう思って出撃した人もいるだろうし、そんなこと考えてなかった人もいると思う。みんなをいっしょくたに美しく定義したりしないで、まずは自分の眼で、ひとりひとりの顔写真と、その人の情報と、遺品や遺書をできるだけ丁寧に見ることだと思います。顔写真の数だけ、人生があったということだから。また来てみたいです。

●平和G
 今紛争で死んでいる人たちだって、あとの人たちの幸せのために死んでいったんだっていうことが言われるけど、そうじゃないですよね。その人の人生はその人のものであっって、他の人のために死んでいるわけではないし、称えられることではないと思うけど。だからここに来ると、亡くなった方に失礼な気がして、いつもなんだか腹が立ってくるんですよね…(笑)。

2002/12/8
●早乙女愛さん 講演禄